自分の歯をよく見ると、いろいろなかたちをしていることがわかります。
動物も、歯のかたちや口の中の仕組みがちがえば、食べ方もさまざま。
京都市動物園の獣医(動物のお医者さん)・土佐祐輔(とさゆうすけ)さんに、
動物の歯の不思議について教えてもらいました。

強いあごで
肉をしっかりかみちぎる!

トラ

前歯、牙(犬歯 けんし)、前側の奥歯(小臼歯 しょうきゅうし)、後ろ側の奥歯(大臼歯 だいきゅうし)と、歯の基本的な並びは人間と一緒。ですが、牙やハサミのようなかみ合わせのとがった奥歯は、肉食動物らしいトラならではの特徴です。あごの力はとても強く、しっかり獲物(えもの)にかみつき、奥歯で肉を細かくします。
トラは、人間のように歯みがきをする生き物ではないため、むし歯予防は難しいもの。京都市動物園では治療などのために全身麻酔(ますい)をするときに歯や口の健康チェックを行うほか、野生動物が食べるものに近い状態のえさを与えるようにしています。トラに肉を与える場合は、骨や内臓も丸ごと。そうすることで、歯や口のトラブルも少なくなります。

トラの中でも大きな亜種

食肉目 ネコ科。園内で飼育する「アムールトラ」は「シベリアトラ」とも言い、もっとも大型の亜種(あしゅ)で、毛が長いのが特徴です。夜行性(やこうせい)で単独行動をし、イノシシやシカの仲間などを食べる肉食動物です。

人間と同じく永久歯が大切

歯の生え変わりは乳歯から永久歯になる1度だけ。折れたり、抜けたりして食べられないと死んでしまうこともあるので、永久歯は大切です。年齢を重ねたトラのえさは食べやすいように細かくしたり、ペースト状にしたり、工夫しています。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
ネコ科だけど、水浴びが大好き!

トラはネコ科の中でもっとも大きな動物。群れで暮らすライオンとちがい、基本的に一頭で過ごすなどネコらしいところがあります。ですが、ほかのネコ科の動物は水がきらいなことが多いのに比べて、トラは水がへっちゃら。水浴びも大好きです。夏になるとプールにつかってすずむ姿が見られることもありますよ!

肉も植物も食べやすい歯で、
何でも美味しくペロリ

ニホンツキノワグマ

肉だけでなく、木の実やくだもの、若芽、はちのこ(スズメバチなどのハチの幼虫)、昆虫、カニ、魚などいろいろなものを食べる雑食動物。そのため、肉食動物と同じとがった牙(犬歯)と、草食動物と同じ平らな奥歯を持ち、肉も植物も食べられるように進化した歯が一番の特徴です。
あごの力がとても強く、大きな生かぼちゃを丸かじりできるほど。特に、オスのほうがかむ力が強い傾向にあります。
クマは、人間とは違って歯のチェックをすることが難しい動物。そのため、展示場所を移動する場合などに麻酔(ますい)をかけるとき、一緒に確認します。ちなみに、歯みがきをする習慣はありませんが、京都市動物園にいるニホンツキノワグマのホノカの口は、意外とあまりくさくないんですよ。

在来(ざいらい)のクマの一種

食肉目 クマ科。トラと同じく「食肉目」ですが、なんでも食べる雑食動物です。「ツキノワグマ」の一種で、日本では本州・四国に生息しています。狩りなどの人間の行為によって九州ではほぼ絶滅(ぜつめつ)、四国でも絶滅寸前と言われています。

えさに注意し、永久歯を守る

人間と同じく、歯の生え変わりは乳歯から永久歯になる1度だけ。だから、永久歯はとても大切。野生動物が食べるものに近いえさを与えたり、年をとってからは食べやすいように細かく切ったりと、歯の健康に気をつけています。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
タイヤのまわりをクマがウロウロ。これって何?

京都市動物園のクマの展示室には、タイヤや木の枝がいっぱい置いてあります。そのタイヤにえさをかくしたり、木の枝のすき間にまいたりしてクマに探させることがあります。本来、野生動物は食べものを探すのにとても時間がかかるもの。えさを簡単に手に入れられる環境にいると、動物は時間を持て余して無気力になってしまったり、むだに動きまわったりと、よくない行動につながってしまうことも。それらを防ぐために、野生に近い状態でえさを食べられるよう工夫しています。「採食エンリッチメント」と言うんですよ。

長い舌と平たい歯がとても便利
よくかみ直す「はんすう行動」も

キリン

キリンには上の前歯と犬歯がなく、長い舌を使って木の葉を上手にからめとります。下の犬歯はありますが牙のようにとがっておらず、ほかの前歯と同じような形です。左右に動かしやすい口の構造も生かしながら、木の葉をすりつぶすように食べます。
じっと見ていると、食べたあとしばらくしてから口を動かしていることがしばしば。これは、一度飲み込んだものを再び口に戻し、かみ直して飲み込む「はんすう行動」と呼ばれるもの。人間はしない、不思議な食べ方ですね!

長い首で身長は動物界トップ

偶蹄目(ぐうていもく)キリン科。現生動物のなかで一番背が高く、オスは5m以上。長い首は、高い場所の食べものを食べるために進化したなど諸説あり、オス同士の争いに使われたり、肉食動物の接近に気づくことに役立ったりも。

歯の健康はふだんから注意

キリンも他の大型動物と同じく、起きている間に歯のチェックは難しいもの。麻酔(ますい)をかける機会があれば歯の状態も確認します。とはいえ麻酔はできる限り避けたいもの。トラブルは未然に防ぐことが大切です。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
足のハートを見つけるとラッキー!

野生のキリンは立ったまま寝ることが多いのですが、京都市動物園にいるキリンは座って寝る姿も見られます。おそらくライオンなどの敵がいなくて、安全だからではないでしょうか。
トゲのある木の葉を食べることもあるからか、「トゲから目を守っているのでは?」という説もある、長いまつ毛がキリンのチャームポイント。毛色(柄)もキリンごとに違い、園内には足にハートのかたちがあるキリンもいるので、探してみてくださいね!

大きな前歯を小さな歯が支えます
歯が伸び続けるのも特徴的

カイウサギ

一見、前歯が特徴的なリスやビーバーなどのげっ歯目に似た大きな前歯を持つ「カイウサギ」。その後ろ側には小さい歯が前歯を支えるように2本生えており、哺乳類の中でもウサギの仲間にしか見られない特徴です。
歯が伸び続けるのも、大きな特徴。草食動物で毎日大量の草を食べるのでそれに適した歯になっていて、上下の歯がこすれることにより、常によい状態を保っています。適切なえさが与えられず、やわらかいものばかり食べ続けると、歯がすり減らず伸び続け、あごに刺さってしまうことも。トラやワニのように麻酔(ますい)はかけませんが、口が小さいので「耳鏡(じきょう)」という器具を使って歯の状態を確認します。

体温調節に役立つ耳

重歯目(じゅうはもく) ウサギ科。ヨーロッパ原産の「アナウサギ」を改良してつくられた品種で、足の裏にも厚くやわらかい体毛が生えています。耳にはたくさんの血管が通っていて、風に当てることで体を冷やし、体温調節できます。

乳歯の生え変わりはスピーディー

生え変わりは乳歯から永久歯に変わる1度だけですが、乳歯からの生え変わりがとても早い動物です。京都市動物園にいる「カイウサギ」の場合、生まれて5週間ほどで永久歯になります。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
大きな耳には秘密がいっぱい!

ウサギは大きな耳が特徴的ですが、これには音を集める役割のほか、ゾウと一緒で、耳を動かし、熱を外に逃す(放熱)の役目があります。また採血するときは、この大きな耳にある血管から採ることも。
ちなみに、「カイウサギ」はたくさん穴を掘る習性のあるウサギです。京都市動物園では脱走しないように、土の下深くにコンクリートの床があります。「脱走しませんか?」とよく聞かれますが、大丈夫ですよ。

何十本ものするどい歯で
獲物(えもの)をガッチリ離さない

ニシアフリカコガタワニ

前歯や奥歯といった役割がなく、歯はすべてとがっているワニ。その数は種類にもよりますが、するどい歯が60〜80本ほどもあると言われています。これらは肉にかみつくためですが、かみくだくことは苦手。そのため大きな獲物(えもの)をくわえると体ごと転がり、その力を利用して引きちぎり、丸飲みに。「デスロール」と呼ばれる、ワニ独特の食べ方です。
園内にいる「ニシアフリカコガタワニ」は、ワニの中では小さい種類に入りますが、やはり健康チェックをする際には注意が必要な動物。麻酔(ますい)をする機会があれば、歯も確認します。

原始的なワニ

ワニ目 クロコダイル科。「ニシアフリカコガタワニ」は、クロコダイル科の中でもっとも原始的な仲間です。全長は1〜1.8mほどで、口さきあたりが短いのが特徴。とがった歯と強いあごの力で獲物(えもの)をとらえる、肉食動物です。

何度も生え変わるたくさんの歯

ワニは、歯の本数がとても多い動物。種類によりますが、強いあごの上には60〜80本ほど生えています。何度も生え変わるのが特徴で、抜けるとすぐに下から新しい歯が生え、常にするどい歯をキープしています。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
えさを見つけると、4本脚で走る!?

種類にもよりますが、実は陸上で走ることができるワニ。しかも、とても速いスピードなんです。置き物と間違えられるくらい動かないときもありますが、それはじっとして体力を温存しているんですよ。

人間の歯とそっくり!
むし歯ができることも

ニシゴリラ

ゴリラの歯はとても人間に似ていて、むし歯にもなります。ゴリラの飼育にかんする研究が進んでいなかった頃は、むし歯になってしまうことがありましたが、現在で野生のゴリラが食べているものにちかいえさを与え、予防に努めています。
人間と違うのは、かむ力が強いこと。そして、お肉や魚も食べるわたしたちと異なり、木の葉や果実など植物を中心に食べる雑食動物だということ。植物をしっかり消化するために長い腸を持っており、おなかがぽっこりして見えます。

大きなからだとおだやかな性格

霊長目(れいちょうもく)ヒト科。「ヒガシゴリラ」と「ニシゴリラ」の2種に分類され、日本の動物園で飼育されているゴリラはすべて「ニシゴリラ」です。見た目とは違いおだやかな性格で、神経質な一面も。野生ではシロアリなどの昆虫を食べることもあります。

歯の成長も、人間と一緒

乳歯と永久歯の1度の生え変わりだけで、歯は人間よりも少し大きめです。京都市動物園で飼育するオスのキンタロウ(4歳)はまだ永久歯の上の前歯が生えておらず、成長途中。以前に、キンタロウの兄・ゲンタロウの乳歯を園の職員が見つけたこともあります。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
個性豊かなゴリラ一家をよく観察しよう

京都市動物園は、ゴリラの飼育下での繁殖(はんしょく)に日本ではじめて成功した動物園。現在園内には4頭のゴリラがいますが、それぞれ性格が違います。オスの兄弟ゴリラはお互いのマネをしたり、お父さんのモモタロウをマネしたりと、とってもほほえましいんですよ。ゴリラは大人になるにつれ体重が重くなりますが、柱や天井にスイスイのぼる姿も必見です。ぜひ、1頭ずつよーく見てみてくださいね。

巨大な歯だけど
健診(けんしん)もできる
かしこい動物

アジアゾウ

ゾウの牙(きば)は犬歯のように思われがちですが、門歯(人間でいう切歯)にあたります。
臼歯(きゅうし。人間でいう奥歯)の生え変わり方でユニークなのが、口の奥から古い歯を押し出すように生えてくるところ。臼歯は上下左右に1本ずつの計4本生えていますが、一生のうちで6回ほど生え変わるので、ゾウの歯は、牙である門歯2本と臼歯24本の計26本です。臼歯の大きさは人間の手のひらほど。またゾウは、しっかりトレーニングをすることで、号令によって口を開けることができるので、麻酔(ますい)をかけずに歯のチェックができます。獣医師にはとっても助かる、かしこい動物です。

くちびるの働きも持つ長い鼻

長鼻目(ちょうびもく) ゾウ科。主に草や木の葉、竹、果実などを長い鼻を使って食べる草食動物です。この特徴的な長い鼻は、上くちびると鼻が伸び、筋肉がついたものです。そのため、鼻先で小さな豆もつまめるほど器用に動かせます。

歯は門歯(牙)と臼歯だけ。

生え変わりは6回で、歯は全部で26本。牙が口の外に出ており、ゾウ同士でじゃれていると間違ってケガをしたり、ヒビが入ったりすることも。京都市動物園では、いつも注意してようすを見ています。

獣医師 土佐先生に聞いてみました
大量のウンチは堆肥(たいひ)に大変身!

ゾウは木の葉や草をたくさん食べ、大人のゾウの場合は1日50kg以上ウンチを出します。オナラもくさいんですよ(笑)。ウンチはコンポストを使って「堆肥(たいひ。土の改良剤)」にしています。京都市動物園は、市場で廃棄物(はいきぶつ)になってしまう、形の悪い野菜などを寄付でいただいてえさにしたり、ウンチを堆肥にしたりするなど「SDGs活動」を積極的に行っていますが、ゾウも協力してくれているんです!

人間は雑食に分類。
歯と舌を上手に使ってパクリ

人間には切歯(せっし)も犬歯(けんし)も臼歯(きゅうし)もあります。食べ物を前歯でかみ切って奥歯ですりつぶして舌も使って唾液(だえき)と混ぜて飲み込みやすくします。野菜も肉も魚も食べるので雑食です。好ききらいなく何でも美味しく食べようね。

歯科医師・岸本 知弘(京都府歯科医師会 理事)

動物園でもSDGsを実践中!

京都市動物園では数年前から動物の食べ物の一部を寄付(きふ)でまかなう取り組みをすすめています。寄付の内容は、市内で切った枝葉や、学校給食やお漬物を作る際に出た野菜の切れ端などです。おからなど、お豆腐(おとうふ)が有名な京都ならではだなと感じるものもあります。動物たちにとっては、新鮮(しんせん)で種類も豊富な食べ物を、年間を通して楽しむことができ、よい効果があるようです。寄付いただいたものを大切に有効活用しつつ、SDGsの活動の一つとして食べ物をむだにしないこと、動物が元気に暮らせることの両方をかなえたいと思っています。

京都市動物園 総務課 佐々木さん

京都市動物園ってどんなところ?

1903年に開園し、日本で2番目に歴史のある動物園。園内7つのエリアでおよそ110種の動物を飼育し、絶滅(ぜつめつ)のおそれのある生き物の繁殖(はんしょく)にも取り組んでいます。2023年は、開園120周年を記念したイベントも多数開催中。

※動物名は京都市動物園の表記に合わせています