PROFILE

京都市教育長
稲田 新吾(いなだ しんご)

京都大学法学部卒業。京都市教育委員会の総務部長、教育次長、教育政策監を経て、令和3年(2021年)4月より現職。

京都市学校教育における
「歯と口」の現在と未来

幼児期、学齢期は生涯健康の土台をつくる大切な時期。
京都市と京都府歯科医師会は連携し、子どもの健康な「歯と口」をサポートしています。
その取り組みなどについて、京都市教育委員会の稲田新吾教育長にお話を伺いました。
聞き手:京都府歯科医師会 理事 河野 亘、岸本 知弘

「歯みがき巡回指導」と「フッ化物洗口」で確かな成果

幼稚園、小学校、小中学校及び総合支援学校を対象に実施している「歯みがき巡回指導」の近年の動向について、お考えをお聞かせください。

稲田教育長:
子どもたちが正しい歯磨きの方法を専門家から学べる「歯みがき巡回指導」がスタートしたのが昭和51年(1976年)度。ですから、この取り組みは、約半世紀も続いていることになります。残念ながら令和2年(2020年)度、3年(2021年)度は新型コロナウイルス感染症の影響で実施できませんでしたが、令和4年(2022年)度からは、関係者の創意工夫によって再開できました。従来の対面での指導に加え、オンラインでの指導を行えたのは大きかったと思います。

ちょうど令和3年(2021年)度に始まった文部科学省の「GIGAスクール構想」により、児童生徒一人一台端末や高速・大容量の校内通信ネットワークが整備されました。こうした環境を京都府歯科医師会、京都府歯科衛生士会の方々がうまく活用して、オンラインでの歯磨き指導を実現していただいた。そのご尽力に心から感謝を申し上げたいと思います。

ちなみに、京都市では「GIGAスクール構想」に対し、関連部署が垣根を越えてチームを結成し、推進に取り組みました。そのおかげで文部科学省の全国調査でも京都市は、授業でのタブレット端末の活用が進んでいるんですよ。

むし歯の予防策として、フッ化ナトリウム溶液を使ってうがいを行う「フッ化物洗口」も実施していますね。

稲田教育長:
まず平成17年(2005年)度から19年(2007年)度にかけて全小学校で実施し、平成20年(2008年)度からは全校で行っています。「フッ化物洗口」と「歯みがき巡回指導」の取り組みの成果は、はっきりと数字にも表れていて、京都市におけるむし歯罹患(りかん)率は全国平均よりも低いんですよ。

余談ですが、わが家の子ども2人はもう成人ですが、京都市の小学校出身で、2人ともむし歯がありません。京都市の取り組みの成果をプライベートでも実感しています。

「給食」を通じて、和食や日本文化への理解を深める

歯や口と密接に関わるのが食です。食は心身の健康や成長の礎(いしずえ)だといえます。京都市では「給食」の充実にも力を注いでいますね。

稲田教育長:
小学校給食では、自校での手作りにこだわっています。例えば、カレーをルーから作ったり、春巻きを一枚一枚手で巻いたり。手間や時間はかかりますが、その分、とても美味しいんです。また現在、週に4日は主食がご飯です。そのご飯に合うおかずということで、京都の伝統食である「おばんざい」などの和食献立を積極的に取り入れています。

和食は、平成25年12月にユネスコの世界無形文化遺産に登録されており、世界的にも注目を集める食文化です。学校では、生きた教材である給食を通して、子どもたちが食文化への理解を深めることができるよう、月1回程度、「和食推進の日」を設定し、和食に特化した「和(なごみ)献立」を提供しています。その中で、四季折々の行事にまつわる献立、例えば、2月の節分に合わせて「いわしのしょうが煮」を提供するなど、日本文化について伝えることも大切にしています。そして、ただ提供するだけでなく、給食カレンダーや動画を活用し、栄養教諭や担任から、「どうして節分にいわしを食べるのか」といった献立の意味合いなどを、説明しているんです。

さらに、最近では家庭で食べる機会も少なくなった、「しば漬」や、「すぐき」といった漬物も一つ一つパックに入れて出しており、子どもたちにとってはいい機会になっていますね。

中学校の「全員制給食」を目指して

中学校の給食事情は、どのようになっていますか?

稲田教育長:
中学校では、平成12年(2000年)度から、「給食」と「家庭で作った弁当」を選択できるようになっています。それ以前は、弁当を持参するのが基本でした。弁当は、ある意味でコミュニケーションツールになります。例えば、子どもが弁当を開けたときに「今日はこんなメニューを入れてくれた」と喜んだり、家に帰ってから家族に弁当の感想を話したりするなど、弁当を通して心を通わせることができます。以前は、そうした部分を重視していたのですが、近年は両親の共働きが当たり前になり、弁当作りに対応するのが難しいという家庭も増えてきました。そんな背景もあって、現在は、給食と弁当の選択制になっています。
中学校の給食も、小学校と同じように美味しいんですよ。栄養教諭が栄養バランスを考えた献立で、季節のものを楽しめるようにしています。ご飯の量は、大・中・小の3種類から選べます。例えば、少食の生徒は小を、運動系の部活動に打ち込む生徒は大を、といったように、生徒の個性に対応する工夫をしています。

さらに中学校については、いま、「全員制給食」を視野に入れ、時代の動向に合った給食の在り方を検討しています。これまでは、経費負担が大きく、学校施設の老朽化対策などの課題もあるなかで、なかなか一歩を踏み出せませんでした。しかし、今年(2023年)に入って国が打ち出した「異次元の少子化対策」にも背中を押され、「全員制給食」の実現に向けた調査を行うこととなり、検討委員会も立ち上げました。
子どもたちが、給食をはじめ、日々の食事をカリカリ、サクサクなどの食感や美味しさを共有しながら楽しむためには、やはり歯の健康がとても大切です。これからも、京都府歯科医師会や京都府歯科衛生士会と協力し、子どもたちの歯を守っていきたいと思います。

インタビューを終えて

誌面では掲載しきれなかった内容も、Web版なら余すところなくお伝えできました(笑)。教育は何も国語や算数、理科、社会、といった科目のことだけではありません。歯や口の健康については義務教育の中で触れることはなかなかないですが、生きていく上ではとても大切なことです。稲田教育長とお話をさせていただき、教育の大切さをあらためて感じました。

稲田教育長を挟んでパシャリ 話は尽きず、思わず撮影中も
話し込んでしまう稲田教育長と岸本理事