京都市学校教育における
「歯と口」の現在と未来
幼児期、学齢期は生涯健康の土台をつくる大切な時期。
京都市と京都府歯科医師会は連携し、子どもの健康な「歯と口」をサポートしています。
その取り組みなどについて、京都市教育委員会の稲田新吾教育長にお話を伺いました。
聞き手:京都府歯科医師会 理事 河野 亘、岸本 知弘
「歯みがき巡回指導」と「フッ化物洗口」で確かな成果
幼稚園、小学校、小中学校及び総合支援学校を対象に実施している「歯みがき巡回指導」の近年の動向について、お考えをお聞かせください。
稲田教育長:
子どもたちが正しい歯磨きの方法を専門家から学べる「歯みがき巡回指導」がスタートしたのが昭和51年(1976年)度。ですから、この取り組みは、約半世紀も続いていることになります。残念ながら令和2年(2020年)度、3年(2021年)度は新型コロナウイルス感染症の影響で実施できませんでしたが、令和4年(2022年)度からは、関係者の創意工夫によって再開できました。従来の対面での指導に加え、オンラインでの指導を行えたのは大きかったと思います。
ちょうど令和3年(2021年)度に始まった文部科学省の「GIGAスクール構想」により、児童生徒一人一台端末や高速・大容量の校内通信ネットワークが整備されました。こうした環境を京都府歯科医師会、京都府歯科衛生士会の方々がうまく活用して、オンラインでの歯磨き指導を実現していただいた。そのご尽力に心から感謝を申し上げたいと思います。
ちなみに、京都市では「GIGAスクール構想」に対し、関連部署が垣根を越えてチームを結成し、推進に取り組みました。そのおかげで文部科学省の全国調査でも京都市は、授業でのタブレット端末の活用が進んでいるんですよ。
むし歯の予防策として、フッ化ナトリウム溶液を使ってうがいを行う「フッ化物洗口」も実施していますね。
稲田教育長:
まず平成17年(2005年)度から19年(2007年)度にかけて全小学校で実施し、平成20年(2008年)度からは全校で行っています。「フッ化物洗口」と「歯みがき巡回指導」の取り組みの成果は、はっきりと数字にも表れていて、京都市におけるむし歯罹患(りかん)率は全国平均よりも低いんですよ。
余談ですが、わが家の子ども2人はもう成人ですが、京都市の小学校出身で、2人ともむし歯がありません。京都市の取り組みの成果をプライベートでも実感しています。
「給食」を通じて、和食や日本文化への理解を深める
歯や口と密接に関わるのが食です。食は心身の健康や成長の礎(いしずえ)だといえます。京都市では「給食」の充実にも力を注いでいますね。
稲田教育長:
小学校給食では、自校での手作りにこだわっています。例えば、カレーをルーから作ったり、春巻きを一枚一枚手で巻いたり。手間や時間はかかりますが、その分、とても美味しいんです。また現在、週に4日は主食がご飯です。そのご飯に合うおかずということで、京都の伝統食である「おばんざい」などの和食献立を積極的に取り入れています。
和食は、平成25年12月にユネスコの世界無形文化遺産に登録されており、世界的にも注目を集める食文化です。学校では、生きた教材である給食を通して、子どもたちが食文化への理解を深めることができるよう、月1回程度、「和食推進の日」を設定し、和食に特化した「和(なごみ)献立」を提供しています。その中で、四季折々の行事にまつわる献立、例えば、2月の節分に合わせて「いわしのしょうが煮」を提供するなど、日本文化について伝えることも大切にしています。そして、ただ提供するだけでなく、給食カレンダーや動画を活用し、栄養教諭や担任から、「どうして節分にいわしを食べるのか」といった献立の意味合いなどを、説明しているんです。
さらに、最近では家庭で食べる機会も少なくなった、「しば漬」や、「すぐき」といった漬物も一つ一つパックに入れて出しており、子どもたちにとってはいい機会になっていますね。
中学校の「全員制給食」を目指して
中学校の給食事情は、どのようになっていますか?
稲田教育長:
中学校では、平成12年(2000年)度から、「給食」と「家庭で作った弁当」を選択できるようになっています。それ以前は、弁当を持参するのが基本でした。弁当は、ある意味でコミュニケーションツールになります。例えば、子どもが弁当を開けたときに「今日はこんなメニューを入れてくれた」と喜んだり、家に帰ってから家族に弁当の感想を話したりするなど、弁当を通して心を通わせることができます。以前は、そうした部分を重視していたのですが、近年は両親の共働きが当たり前になり、弁当作りに対応するのが難しいという家庭も増えてきました。そんな背景もあって、現在は、給食と弁当の選択制になっています。
中学校の給食も、小学校と同じように美味しいんですよ。栄養教諭が栄養バランスを考えた献立で、季節のものを楽しめるようにしています。ご飯の量は、大・中・小の3種類から選べます。例えば、少食の生徒は小を、運動系の部活動に打ち込む生徒は大を、といったように、生徒の個性に対応する工夫をしています。
さらに中学校については、いま、「全員制給食」を視野に入れ、時代の動向に合った給食の在り方を検討しています。これまでは、経費負担が大きく、学校施設の老朽化対策などの課題もあるなかで、なかなか一歩を踏み出せませんでした。しかし、今年(2023年)に入って国が打ち出した「異次元の少子化対策」にも背中を押され、「全員制給食」の実現に向けた調査を行うこととなり、検討委員会も立ち上げました。
子どもたちが、給食をはじめ、日々の食事をカリカリ、サクサクなどの食感や美味しさを共有しながら楽しむためには、やはり歯の健康がとても大切です。これからも、京都府歯科医師会や京都府歯科衛生士会と協力し、子どもたちの歯を守っていきたいと思います。