EVENT REPORT

11月8日は「いい歯の日」。その関連イベントとして、令和5年(2023年)11月11日に京都府歯科医師会口腔保健センターにて「いい歯の日週間」記念行事 府民公開講座が行われました。 講座内容の一部をご紹介します。

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特別公園とは
府民の歯と口の健康維持・増進を図るべく、歯科保健の情報を分かりやすく伝えることを目的とした特別講演。今回は「健康長寿のための歯科 -歯の治療と口腔ケアの知恵と工夫-」というテーマで行われました。

講演者情報
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岡崎 定司先生
大阪歯科大学 名誉教授

平成20年(2008年)、大阪歯科大学 欠損歯列補綴咬合学講座の教授に就任。令和4年(2022年)に退職するまで研究と後進の育成に尽力する。現在は同大学の名誉教授や日本補綴歯科学会の名誉会員、イギリスのカーディフ大学の名誉客員教授を務める。

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工藤 彩加先生
歯科衛生士

平成22年(2010年)3月に大阪歯科学院専門学校を卒業し、歯科衛生士免許を取得。その後、歯科医院に勤務する傍ら、海外の大学で研鑽を積む。令和3年(2021年)6月にフリーランスとして独立。講演活動や医療業界の人材育成に力を注いでいる。

なぜ口腔ケアは重要なの?

細菌によって引き起こされるむし歯や歯周病。
進行すると歯が抜けるだけでなく、がんなどの深刻な病気につながることも。

ここでいう口腔ケアとは、「口腔清掃により、口腔衛生環境を保持し、歯科疾患を積極的に防止する方法の総称」です。簡単に言うと、皆さんが毎日行っている歯磨きなどのことですね。口腔ケアの大きな目的は、むし歯や歯周病の予防です。むし歯や歯周病が進行すると歯が抜けてしまう恐れがあります。また、歯周病は、がんや脳血管疾患といった重篤な病気の引き金になるといわれます。そもそも、むし歯や歯周病は細菌によって引き起こされる病気です。実は、口の中には細菌がたくさん存在しています。その種類は約700種にのぼり、口腔ケアを怠ると細菌の総数が1兆個になることもあります。

歯に付着する細菌の塊、バイオフィルム。
毎日の歯磨きや歯科医院でのケアで、むし歯や歯周病の原因をしっかり除去。

口の中でも、特に細菌が棲息しやすいのが歯の表面です。歯のくぼんだ部分や歯と歯の間、歯と歯ぐきの隙間などに細菌が塊となって付着します。この塊のことを、バイオフィルムと呼んでおり、ネバネバしているのが特徴です。ちなみにむし歯や歯周病の原因となる細菌は、それぞれ種類が異なり、むし歯を引き起こす細菌は、糖分が大好き。一方、歯周病を引き起こす細菌は血液成分が好物です。口腔ケアのポイントは、こうした細菌が密集するバイオフィルムや、細菌のエサとなる食べ残しなどを除去すること。家庭での歯磨きに加え、歯科医院で専門家による口腔ケアを定期的に受けることで、口の中の健康を維持していただきたいですね。

口の中に、これほど多くの細菌がいるとはビックリ。「むし歯は夜に作られる」そうだから、寝る前の歯磨きは、特にしっかり行いたいね。

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入れ歯との向き合い方

歯が抜けると日常生活が不便に。
そんな悩みを改善してくれる入れ歯、ブリッジ、インプラントの違い。

むし歯や歯周病などで歯が抜けてしまうと、食べ物をかめなかったり、話しにくかったりと、生活に支障をきたします。また、見た目が気になるという声も。こうした悩みを解消するため、歯が抜けた所を補うものには、いくつか種類があります。代表的なものとして、まずはブリッジ。これは抜けた歯の両隣の歯を土台にしたかぶせ物です。次にインプラント。これは歯が抜けた部分の骨に支柱を埋め込んで人工の歯を支えます。そして、最も一般的なのが入れ歯です。入れ歯は、残っている歯と抜けた所の歯ぐきで人工の歯を支えます。このうちブリッジは、残っている歯が少ないと使えません。またインプラントは保険適用外で、経済的負担が大きくなります。一方で、入れ歯は残っている歯が少なくなっても使えますし、費用もインプラントほどかからないので、利用しやすいといえます。

いったん入れ歯を利用し始めるといずれ総入れ歯になるリスクが…
使い始める時期を遅らせるのが望ましい。

食事やコミュニケーションなど生活の質を改善できる入れ歯ですが、実はマイナス面もあります。それは入れ歯の隣の歯が10年、20年後に残っている割合がブリッジやインプラントに比べて低いという報告からもうかがえます。入れ歯は歯ぐきを土台にしているので、グラグラと横に揺れやすいという特徴があります。歯は上からの圧力には強いのですが、横揺れには弱いため、入れ歯を支えている歯に大きな負担がかかり、その歯が抜けやすくなるのです。つまり、いったん入れ歯を使い始めると、いずれ全てが入れ歯になってしまう可能性もあるということです。できれば、入れ歯を使い始める時期を遅らせたいもの。そのためにも毎日の口腔ケアが大切です。

総入れ歯になると、健康な歯のときと比べて、かみ合わせの力が約6分の1に低下するのだとか。できるだけ長く、健康な歯を保ちたいですね。

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歯科医院でのケアとは

口の中の健康状態を定期的にチェック。
歯や歯ぐきの変化を見極め、状態に応じた適切なケアを行う。

歯科医院では、定期的な口腔ケアを行っています。3カ月や6カ月に1度など、患者さんに応じたペースで来院していただき、歯科医師と歯科衛生士が口の中の健康をチェックします。前回、来院されたときと比べて、口の中の健康が維持されているか、悪化していないかを調べ、状態に応じたケアをします。その際、特に注目するのが細菌の塊、バイオフィルムです。歯の表面にバイオフィルムが付着していないか、また、バイオフィルムによって歯や歯ぐきなどに異常が発生していないかを見ていきます。

歯周病チェックや歯のクリーニング、歯磨き指導を実施。
専門家ならではのきめ細やかなケアで口の中の健康を守る。

口腔ケアの具体的な手順としては、まず歯と歯ぐきの隙間の深さを測ります。この隙間が一定以上深くなると、歯周病を患っている可能性があるからです。次に、特殊な機械で歯に付着したバイオフィルムや、バイオフィルムが固まってできた歯石を取り除きます。こうした除去作業を行うと、歯の表面に傷がつきます。傷が残ったままだと、バイオフィルムが付着しやすいので、最後に、歯の表面を磨いて傷をなくしていきます。一連のケアが終わった後は、患者さんの状態に応じて、歯磨きの適切な方法を指導します。
歯科医院というと、歯が痛くなったときに治療してもらう所、というイメージがあるかもしれませんが、実は、口の中の健康を守るための場所でもあるのです。歯科医院を上手に活用して、口の中の健康づくりに役立ててください。

口の中の健康状態を定期的にチェックしてもらうと安心できますね。プロから学んだ歯磨きだから自宅でも効率的に悪い細菌を取り除けます。

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